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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

客来一味

蘭丸は多くをいわず、また眼の前のことに触れなかった。

「お席へおかえり下さいまし。信忠様。信澄様。また丹羽どのを始めとして諸将方、手もちぶさたに、お控えでいらっしゃいます」

信長は素直に、大勢のなかへ戻って来た。けれども坐らなかった。そのまま、座中を見まわして、

「ゆるせ、興醒めたことであろう。各※(二の字点、1-2-22)は、存分に。存分に」

云い捨ててさっさと、奥の房へかくれてしまった。

客来一味

土蔵長屋の廂に、燕が、群れ鳴いている。陽の暮るるも知らず、親燕は巣の中の雛に、餌を運びぬいているらしい。

「画題になりますかな」

ひろい中庭を隔てた住居の一室で、明智の老臣、斎藤利三が客にいう。

客は、海北友松という画人。この諏訪の人ではない。

五十前後か。画人ともみえない骨ぐみ。無口である。幾棟もある味噌屋蔵の白壁が、そこだけを辺りの夕闇から暮れ残している。

「いや、この戦時中、ふいにお訪ねして、世外人の悠長なはなしばかり……。おゆるし下さい。さだめし、御陣務も多かろうに」

友松は、暇を告げるつもりらしく、長座したしとねを退がりかけた。

「まあ、よかろう」

斎藤内蔵助利三は、おっとりしたものである。