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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

表二階の障子をたてた部屋の内から、一人はかならず外を見張っていた。

七、八日目頃である。黒田官兵衛は、渡辺天蔵を連れて、池之坊の門口を出た。足の痛みもよほど快くなったとみえ、歩行にもさほど跛行をひいていない。町端れまで来ると、馬を雇った。そして官兵衛だけは馬の背にゆられ、六甲の麓を右に望みながら兵庫路へさして行った。

赤松の梢に、山藤の花が垂れていた。道はひくい山陰をめぐってゆく。ふと、官兵衛は馬をとめて、

「天蔵。この辺で休もうか。後の者が追って来たらしい」

と、云いながら、もう鞍を降りかけた。

おうーい、おうーいと遠く呼ぶ声がしている。渡辺天蔵にも聞えていた。またその声の主が何者かもわかっていた。

柔らかい春の陽を正面に、陽炎も立ちそうな崖の山芝を背に、官兵衛は、木の切株に腰かけていた。

わらわらと、そこへ喘ぎながら追いついて来た三名の旅人がある。どれもこれも、名乗り合わなければ知れないほど、顔も姿も変っている。みな黒田家の家来で、みな官兵衛の若年からそばに仕えて来た者たちではあるが――。

「おお」

「殿!」

官兵衛は、腰をあげて、突っ立った。――同時に、その足もとへ、三名の家来は、ひたと、ひれ伏していた。