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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

た眼で見ているのだった。

で。その光秀からこよい、絵手本でもと乞われると、それこそこの人の晩節を完うする所以と考えられたのである。そして光秀自身も、ふかく自身のあぶな気に反省していることも分って、何せよ、それは早速にも、画いて上げねばなるまいと思われたことだった。

光秀は、その晩、快眠した。

一浴のおかげであった。また、思わぬ佳い客のお蔭であったと思う。

暁――

兵はもう暗いうちから起きて、馬には草飼い、身には甲い、そして腰兵糧までつけて、主人の出るのを待っていた。今朝、法養寺に勢揃いし、諏訪を立って、甲府に向う。そしてさらに、東海道を経て、安土へ凱旋という予定。

「殿。はやお身支度も」

「おう内蔵助か。ゆうべは、よう眠ったぞ」

「それはおよろしゅうございました」

「立ち際に、友松へ、志ばかりと申して、路用の手当なと遣すがよい」

「ところが、その友松どのは、今朝起きてみますと、もうおりませぬ。兵と共に起き出て、まだ夜も明けぬうち、一笠一杖の気軽さ、飄乎として立ち去ったものとみえまする」

「さても気がるな……」

と、光秀はつぶやきながら朝の空を見て、

「羨むべき境涯ではある」