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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

口にこそ出さね、半兵衛様も、父の孝高に会いたいと思っているにちがいありません」

松寿丸は、健気に、そういうと、身なりに較べては、大き過ぎて見える槍の柄を横にかかえて、山すそへ、駈け下りて行った。

秀吉は、その踵を、反対のほうへ回らして、途中から次第に歩速を大股に運んでいた。営中、幾棟にもわかれている仮屋の一つに、燈火の影が漏れていた。そこが竹中半兵衛の寝ている病棟で、折ふし、そこの屋根越しに宵の月が淡くのぼりかけていた。

枕許には秀吉から附けておいた医師もいる。竹中家の臣もいる。ほんの板囲いに過ぎない仮屋の藺莚のうえではあるが、白い衾は厚くかさねられ、片隅には、職人図を描いた屏風が一張立てられてあった。

「半兵衛……。わかるか。秀吉じゃ、筑前じゃ、どうだの、気分は」

そっと、側へ坐って、枕の上の顔をさしのぞいた。

夕闇のせいか、半兵衛の面は、琅のようにきれいである。――かくまで人は痩せるものかと、涙なきを得なかった。

秀吉は、辛くなった。見ているのが、どうにも、傷ましい。

「医師」

「はい」

「……どうだなあ」

「…………」

医者は何とも答えないのである。