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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

鴉を喰ったことはたいへんな数で、その鴉さえほとんど手に入るのが稀れになったほどである。

――がさっと、何か暗闇のなかで、鼬の駈けるような物音がしても、哨兵はすぐ、眼をひからせた。本能的に胃が胃液を滲出するため、その後では、きっと、

「腹が絞られるように痛い」

と顔をしかめ合うのだった。

その晩は、月がよかった。だが、城兵は、

「ああ。――月は喰えない」

と喞った。

見張っている寨や、城門の屋根に、わらわらと、落葉がこぼれてくる。ひとりの兵は、むしゃむしゃと紅葉を喰っていた。

「うまいか」

ひとりの哨兵が聞くと、

「藁よりはましだよ」

と、また一つかみ拾って喰う。

だが、忽ち、こそばゆくなったとみえ、しきりに咳をして、喰っただけの紅葉を吐き出していた。

「……あッ、御家老が」

誰か、突然、呟くと、みな気を緊め直して、槍の穂へ、確と、意志を示し直していた。――ひた、ひたと、ただ一人で、灯の気のない本丸のほうから歩いて来る人影がある。別所家の家老、後藤将監基国であった。

「やあ、大儀だのう。ご苦労だのう。何も変ったことはないか」

「べっして異状はございません」

「そうか……」