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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
「参ってもよろしいでしょうか」
と、ゆるしを仰いだ。
はて――? と秀吉はそれへ眼をそそいでいた容子である。平常あまりないことだからである。しかしすぐ頷いて、
「行って来い」
と、いった。
松千代は父の家来に従いて駈けて行った。陣屋陣屋ではどこも火を焚いていた。またどこの部隊も陽気だった。もう餅も酒もないけれど、正月気分は幾ぶんかまだ残っている。――こよいは一月十五日だった。
父は陣屋の中にいなかった。この寒いのに、仮屋からずっと離れた山鼻の一端に、床几をおかせて、腰をかけていた。
吹き曝しである。見晴らすには何の邪魔物もないだけに、寒風は好き勝手に肌をめぐって血も凍えるばかりである。が、官兵衛孝高は、まるで木彫の武者像のように、ひろい闇へ向って、じっとしていた。
「父上、松千代にございますが」
そばへ来て、ひざまずいた子のすがたへ、彼は初めて、少し身を動かした。
「殿のおゆるしを得て来たか」
「はい。お断りして来ました」
「しからば、しばしの間、父に代って、ここの床几に腰かけておれ」
「はい」
「眸はしかと、ここから真正面の三木城をにらんでおれ。――というても、星さえ暗い、城の方には、一点の灯もない。