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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
(おれの援助がなければ、徳川家はいま滅亡のほかはないのだ)
などと思い上がらせるような弱体ぶりは示さなかった。
むりに彼以上に出ようともしなかったが、弱小国でも、眼前に危急を見ていようと、彼以下には、身を置かない。初めて清洲の城で、信長と会見した弱冠から、今日にいたるまで、五分と五分を持していた。
強右衛門の来たことを、そこで今、侍臣から耳にしても、彼は至って、平然たる面のまま、
「そうか。むむむ」
と、いったきりであった。
信長の小姓が、信長仕込みの小舞を舞っているのを、熱心に見入っていた。
やがて、一節の舞もすみ、鼓の音もやむと初めて、
「織田どの」
と、新たに杯を洗って、
「ちょっと、中座させていただく、長篠からの使いが今、表まで着いて控えておるそうですから」
と、断って立った。
そこは、静かに出たが、
「貞能、どこにおる?」
と、室外へ来て、仄暗い廊下へ出ると、声はすでに、心のそこのあわただしさを現わしていた。
「おッ、殿」
「貞能か。長篠より来たとある鳥居強右衛門とやらに、城中の様子つぶさに、自身聞きとりたい。どこに控えておるか」
「いや、召し連れましょう」