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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

長篠

世は戦国と誰もいう時勢である。攻城、野戦の陣頭には、英才雄才、あらゆる人材が参与しているが――それと併行してより以上にも重要な軍費財務の方面には、ほとんど進んで当ろうという偉才がない。

だからたまたま、調法な男を見出すと、つい寵用する。奢りも見のがしておく。――それに狎れてついに家康ほどな人に、生涯の苦杯を飲ませたもの、ここに大賀弥四郎があり、後に、大久保長安がある。

財務の名匠たることは、戦陣の名将たる以上、人間として難しいものとみえる。

長篠

武田勝頼の大軍は、すでに三河に入っていた。

そしてなおも大行軍の途中にあったのである。

「征かんか? 還らんか?」

勝頼の迷いは深刻だった。

落胆のほども思うべしである。

実に、こんどの出動は、ただただ大賀弥四郎の内応一つにあった。作戦、目標、すべて岡崎の内部から、攪乱と呼応のあることを、かたく期して来たのである。

ところが――

一切は大賀一味の逮捕と、露顕によって齟齬してしまった。のみならず、甲軍の方策は、早くも徳川方に読み抜かれてしまったわけである。

河を泳いで逃げのびて来た、倉地、小谷のふたりから、それと知ったときの勝頼が、はたと困惑につつまれた容子も――思えば無理はないのだった。