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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
不測の事
秀吉は急遽岐阜へ使いを出していた。岐阜中将信忠の扱いを仰いで、信長の心をなだめようとしたのである。
上洛の用もあって、その後、信忠はまもなく京都へ出て来た。
秀吉は直家を伴って、彼に謁し、ついに信忠のとりなしで、信長も、
「では、対面しよう」
と、ようやく心を解いた。
そして誓紙に朱印された日から、宇喜多一族は完全に、毛利を去って織田方へ属したわけであるが、偶然といおうか、兵機の間髪といおうか、それからわずか七日と経たないうちに、織田方の勇将荒木村重が、信長を裏切って毛利と呼応し、突然、叛旗を織田の足もとからひるがえしたのであった。
不測の事
「嘘だ。嘘であろう?」
信長は始め信じない顔つきであった。
荒木摂津守村重謀叛という報が入って、安土の内外を愕かせたときの――彼の愕きから来た一瞬の感情ではそう否定した。
やがて、その報は、
「村重にしたがって、高槻の高山右近も、茨木の中川清秀も、義をとなえ、ともに叛旗をひるがえした」
と、事態の重大さと、その輪廓が明らかにされて来るに従って、信長も、
「さては」
と、今さらのように、狼狽のいろを眉にあらわした。
ふしぎなことには、この意外な事実に当って、彼は憤怒もしなければ、日ごろの癇癖も出さなかった。