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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

苦衷

殊さらに、そう糺したくなる程、秀吉の面は、変り果てていた。

出陣のときの彼と、いま見る彼のすがたとは、別人のようである。眼はくぼみ、少し赤いまばらな髯は、たわしのように唇のまわりに伸びていた。

――苦労したな。

信長にはすぐ察しられた。

「筑前」

「はい」

「何しに見えた。忙しげに」

「陣中、寸閑も、抜き差しならぬ身にござりますゆえ」

「さ。……その其方がじゃ、何で急に抜けて来たか」

「おさしずを仰ぎたい儀がございまして」

「さてさて、厄介な大将。すでに指揮は、そちに一任してあるに、事ごとに、信長の意見を問うていたのでは、機微な用兵にあたって、おそらくは間に合うまい。……なぜこのたびに限って、そう固くなっておるか。そちの果断をもって振舞わんか」

「ごもっともな御焦躁です。が、御命令はつねにわが君の御一途から出でねばなりません」

「信長が授けた軍配、そちにはそれを右するも左するも免されているではないか。信長の意志だにそちの肚に分っておれば、そちのする指揮は、信長の指揮じゃ。何を惑うぞ」

「おそれながら、それゆえにこそ、いささか苦心いたしております。また、一兵たりと、あだには死なせじ。