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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
病軍師
秀吉はそこへ行って、
「なるほど。絶景絶景」
と、まず地の利を賞めた。
そしてまた、小姓たちへ、
「黒田官兵衛も、誘うて来い。この月を、見せぬは惜しい」
と、いって、彼の小屋へ使いを走らせた。
病軍師
巨きな松の根がたである。月見の莚には恰好な場所だ。
折敷には乾肴、鶴くびの一壺には冷酒。あれこれの贅はなくても陣中の小閑を楽しむには充分である。――まして皎々一輪の月は頭上にある。
秀吉を中に竹中半兵衛、黒田官兵衛、そう三人は、莚のうえに鼎坐していた。
「…………」
飽かず、月を見上げて。
秀吉は、尾張中村の芋畑を回想していた。半兵衛は初めて世の不思議を感じた菩提山の月を思い出していた。また官兵衛は反対に、この月も忽ち騒雲につつまれれば墨のようにもなる――明日を独り考えていた。
月はひとつだが、観るものの心々に観られていた。
「半兵衛どの……お寒いのではないかな」
ふと、黒田官兵衛が、そういって宥わったので、秀吉も急に案じられたものか、半兵衛の面へ眼をうつした。
「……いや、さほどでも」
静かに、そう笑って、半兵衛は顔を横に振って見せたが、その一瞬、気のせいか、彼の面は、月より白く見えた。