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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
ついに、彼の番になった。
いきなり甲冑の武士の手が、左右から彼の肌を撫でた。髪の根を探ったり懐中へ手を突っこんだりした。強右衛門は阿呆のように口を開いていた。
「人夫か」
「へい」
「どこだ」
「へい。何がで」
「たれの手に従いて、どこの組の者かと訊くんじゃ」
「庄助って、申しますだ。岩村の衆と一緒に来たんで、岩村組におりまする。へい。岩村組の」
「もういい」
「へい」
「――通れッ」
背の軽桟を突きとばされて、よろよろと、強右衛門は柵の中に入っていた。ほっとした余り、少し戸惑っていたとみえて、彼が歩き出すと、
「おいおいッ、馬鹿ッ、何処へゆく気だ」
と、鞭を持って牛馬や人夫を督している荷駄隊の兵に、そのうろたえを呶鳴りつけられた。
馬の背の叺、牛車のうえの穀俵などを、陣屋の兵站部へ担ぎ込むのだった。
兵は殺気立っている。鞭で人夫を撲るぐらいは物の数でない。
「傍見ばかりしているなッ」
強右衛門も、幾度か背や尻を打たれた。――だが、打たれている間は安心であった。
「飯だ。飯小屋へ集まれッ」
もう宵闇。大釜の火だけが赤い。そのまわりに立ち群れて、人夫や百姓たちはがつがつ飯茶碗を持ち合い、汁の杓子を争っていた。