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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
「――む、む」
と、勝頼は満足なうなずきを与えた。そして彼の賛意にいよいよ力を得て、再び諸将へ向って、その主戦論を強調しようとした時、
「大炊どの! ちと、言葉をたしなまれよ。ここは、新羅三郎様より二十七代にいたるわが武田家の興亡のわかれ目、御浮沈のさかいにあることを、深く思い給わぬのか」
馬場美濃守の白髪はふるえていた。ほかの老将たちも、口を緘してこそいたが、面には朱をそそいでいる。そして厳しい眼ざしを、一斉に大炊介のほうへ向けた。
すると、大炊介は、
「たしなめとは、何をうろたえて。今は、平常ではありませぬぞ。陣中だ。しかも、前後に敵をひかえ、避け得ぬ大決戦を目睫にひかえておる。お家のため、信ずることを申すのに、何の、憚りがあろうッ」
彼も、負けずに声を励ますと、彼と、意見を一つにする勝頼は、
「跡部に発言をゆるしたのはわしである。なぜ、彼にも充分、意見を吐かすぐらいは余裕をもたぬか」
と、却って、老将たちをたしなめた。
美濃守も、山県、原、小山田たちの宿将も、恥かしいような心地に打たれた。同時に、暗然と、口をむすんだ。
跡部大炊介は、いうのである。