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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
(来れッ、甲軍の精猛)
と、余裕の程を示している。
――が、これは進撃の備えではない。信長のいうが如く敵を殲滅するには、この柵へ敵軍を寄せつけることが絶対の条件となる。恐らくは、そのための誘いであろう、佐久間信盛の一隊と、大久保忠世の銃隊の一部は、柵外に出て、敵を待ちうけていた。
わあッと、暁の空に向って、突然、諸声があがった。まだ敵と接するには不意過ぎた。鳶ヶ巣方面に立ち昇った黒煙を見出したのである。
この焔炎は、ここからは正面に見えたが、甲州全軍の備えから見れば後方にあった。甲軍の愕きはいうまでもない。
「すわ。敵は後ろにも働いておるぞ」
「後方へ敵が迫った!」
蔽い難い動揺の中に、主将勝頼は、
「一刻の猶予もすな。敵を待つは敵に思いのまま有利な配備をさせるに過ぎぬ」
断乎、進撃を命じた。
彼の自信と、それによってうごく甲軍全体の信念は、
「知らずや、信玄公以来、不敗の名あるわが武勇を」
というそれだけであった。
何ぞはからん。この時を境として観ても、時代はあきらかな推移を告げていたのだ。文化は駸々と進んでいる。西力――南蛮船による文化の東漸は――火薬、鉄砲などの武器に大変革を起していたのである。