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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
と、豪語して交渉を蹴った。そしてその通り、落城の日は、自分の首も、平蜘蛛の釜も、鉄砲ぐすりを仕掛けて、粉々にくだいてしまうように家臣へいいつけ――その上で腹を切った。よほど忌々しかったのであろう。
また、切腹にかかる前、中風の灸をすえた。
彼の強慾は、「物」ばかりでなく、長寿にもあったとみえ、日頃から養生にはつとめていたらしい。いちど中風に倒れたことはあったが、また持ち直して頑健をとり戻していたほどである。
日頃、人に語って、
(松虫鈴虫などは、みな一年で死ぬというが、自分は試しに、松虫を三年まで飼い生かしてみたことがある。だから人間も養生の仕方では、人間自身が思っている命数よりはるかに生きられるにちがいない)
そういう信念を持っていた漢である。切腹前に、灸をすえたのは、
(もし、死に臨んで、中風が再発して、みぐるしい死に方をしてはならぬ)
と、左右に理由を語っていたというから、いかに彼でも、なお生きのびるためではなかったらしい。
乱世の間を、こういうふうに、押し太く、悪狡く、上手に生きぬいて来たつもりであった松永久秀も、たった一つ、大きな過誤を犯してしまった。