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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

「それもよろしゅうございましょう」

秀吉は逆らうことなく、ただ友のために、また主家のために、こう一言を云い足した。

「俗諺にも――仏者の嘘を方便といい、武門の変を戦略という、とか申します。――変には変をもって応じ、真っ向に乗ってゆくこと、かえすがえす厳禁です。毛利方をして、歓ばしめるような策は、ぜひともお避け遊ばすように」

「わかっておる」

「御評議の結果も相待ちたく思いますが、播磨表の動揺も心もとなく存ぜられますゆえ……筑前はすぐお暇を」

「そうか」

と、やや残り惜しげに、

「――帰路はいかがいたすか。兵庫路はもはやうかと通行もなるまいが」

「お案じくださいますな。海路もありまする」

「むむ。……では、結果は刻々早打ちをもって云い遣ろう。そちからも、便りを怠るな」

「仰せまでもございませぬ」

秀吉は、安土を退城った。

体も疲れていたので、彼は船手の者に帆船を出させた。安土の下から船で大津へ渡った。

その夜は三井寺の房に一泊し、あくる日、京都へ向った。

堀尾茂助と福島市松をそこから先発させて、

「堺の浜に、船の準備をしておくように」

と、手筈をいいつけ、自身は蹴上の下から道を曲って、南禅寺へ立ち寄った。