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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

と、荒れ模様の天候でもながめているように、至極大らかな顔して、平々凡々と口をさし控えているだけのことであった。

これは、他人では真似のできない、彼の天性の味らしい。もし勝家とか、光秀とかが、この模倣をしたと仮定したら、火へ油をそそぐように、信長のそれは忽ち癇癪となって爆発するにきまっている。

「……筑前。何しに来た?」

根負けのかたちである。とうとう信長から云い出した。

すると秀吉、初めて、額をすりつけんばかりにして、

「お叱りを戴きに参りました」

と、恐懼して答えた。

(――いい返辞をするやつ)

と、信長は心憎く思った。こういう返辞に対してはいよいよ怒り難くなるからである。

わざと、噛んで吐き出すように、

「なに、叱られに来たと。詫言ですむと思って来たか。この信長に、いや全軍の上に、かくまで大事を誤らせておきながら」

「てまえより早打にて差上げ置きました書状は、はやお手もとに」

「見た!」

「官兵衛孝高を説客としてつかわした儀は、明らかに失敗に終りました。ついては」

「云い訳か」

「いや、禍を転じて福となすため、お詫びをかねて、次の一策を告げ参らせんと、兵庫街道の敵地の中を、ただ一鞭に駈けて参りました。