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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
彼は、背の荷物や衣服を、一つに括って、頭へ結いつけた。そして猪のように、石垣の下の草むらを這い、水流を測っていたが、やがて、ザザザと激流のなかへ身を進ませた。
烈しい水圧と共に、すぐ胸や足を遮るものがあった。河中へ縦横に張りめぐらしてある荒縄だった。縄には無数の鈴が鳴子のように結びつけてある。
「八幡。加護あらせ給え」
強右衛門は、神に念じた。鈴鳴子はりんりん鳴る。彼は、脇差を抜いて、身に絡む荒縄を、切っては泳ぎ、薙いでは泳ぎ、ようやく滝川の対岸へ手をかけた。
「はてな? 鈴が鳴ったが」
柵の陰で、敵兵の声がした。強右衛門は、すぐ下の岸辺に、息をこらしていた。
すると、べつな声で、
「鯉か鱸だろう。きのうも大きな魚が捕れた。梅雨時だからなあ」
――神の助け。強右衛門は、その跫音が遠く去ると、柵を躍って、驀しぐらに駈け出した。敵陣、敵地、どこをどう駈けたか、自分でも分らなかった。
――が、明けて午すこし前、かねて約束の雁峰山の上から、彼の手によって揚げられた狼烟は、まさしく天をつらぬいた。城兵五百の歓喜と涙のひとみに、その煙と空は、いかに麗しく見えたろうか。