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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

そこへ田舎から上野へ着いたばかりの父親が、日和下駄をはいて、蝙蝠傘に包みを持ってやって来た。

「庄そこにいたか。」

父親はしゃがれたような声をかけて行った。お庄は猫背の大きい父親の後姿を、ぼんやり見送っていた。

お庄が弟をつれて家へ入って行くと、父親はぽつねんと火鉢のところに坐って、莨を喫していた。母親も傍に黙っていた。お庄は父親と顔を合わすのを避けるようにして、台所の方へ出て行った。

「女房子を人の家へ打っつけておいて、田舎で今まで何をしていなさっただえ。」と、主婦は傍へ寄って行くと、ニヤニヤ笑いながら言った。

父親はどこかきょときょとしたような調子で、低い声でいいわけをしていた。

「それならそれで、手紙の一本もよこせアいいに……。」と、主婦は父親に厭味を言うと、「ちっとあっちへ行って、台所の方でも見たらどうだえ。」と母親を逐い立てた。

母親は始終不興気な顔をして、父親が台所へ出て声をかけても、ろくろく返事もしなかった。

「酒を一本つけてくれ。私が買うから。」と、しばらく東京の酒に渇えていた父親は、暗いところで財布のなかから金を出して、戸棚の端の方においた。