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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

三十五

「御心配入りません。私のことはどっちへ転んだって、体一つですから……。」と淋しく笑った。

「そうなんだ。……女てものは重宝なもんだからね。その代りどこへ行くということが決まれば、私もそれは出来るだけのことはするつもりだから。」

お国は黙って、釵で、自棄に頭を掻いていた。晩方飯が済むと、お国は急に押入れを開けて、行李の中を掻き廻していたが、帯を締め直して、羽織を着替えると、二人に、更まった挨拶をして、出て行こうとした。

その様子が、ひどく落ち着き払っていたので、新吉も多少不安を感じ出した。

「どこへ行くね。」と訊いて見たが、お国は、「え、ちょいと。」と言ったきり、ふいと出て行った。

新吉もお作も、後で口も利かなかった。

三十五

高ッ調子のお国がいなくなると、宅は水の退いたようにケソリとして来た。お作は場所塞げの厄介物を攘った気でいたが、新吉は何となく寂しそうな顔をしていた。お作に対する物の言いぶりにも、妙に角が立って来た。お国の行き先について、多少の不安もあったので、帰って来るのを、心待ちに待ちもした。

が、翌日も、お国は帰らなかった。新吉は帳場にばかり坐り込んで、往来に差す人の影に、鋭い目を配っていた。