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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

五十七

と丸山は、叔父の田舎へ行っている留守に、折々茶を呑みに来ては、お照の噂をして母親に厭味を言った。

女はお庄の家へ来て、机に坐って叔父へ長い手紙を書いた。手紙にはお庄に解らないようなむずかしいことが書いてあった。女は小説でも読むような気取りで、母子にその文句を読んで聞かせた。お庄は狂気じみたその顔を瞶めながら笑い出した。

叔父から返事が来た。女は手紙の字が巧いと言って、独りで感心していた。

「あなたの叔父さんは真実に深切よ。」

「深切だか何だか知らないけれど、家の叔父さんはもうお爺さんよ。」

「お爺さんだっていいじゃないの。一生一つにいやしまいし……。」

五十七

繁三をつれて、三月の東京座を見に行った叔父が、がちがち顫えて帰って来た。顔が真青になって、唇に血の気がなかった。

叔父は田舎から帰ってからも、家に閉じ籠って考えてばかりいたが、気が塞って来ると、時々想い出したように、誰かを引っ張り出して芝居や寄席へ行った。その日はちらちらと雪が降っていた。芝居のなかも暗く時雨んだようで、底冷えが強く、蒲団を被けていても、膝頭が寒かった。叔父は背筋へ水をかけられるようで、永く見ていられなかった。