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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

二十八

お庄は婆さんに何か言われるたんびに、下宿の二階で見たことなどがじきに頭に浮んだ。鬢の薄い、唇の黒赭いようなその顔が、見ていられなくなった。

「兄さんはお二階……。」お庄は落ち着かないような調子で訊いた。

二階では、取っ着きの明るい部屋で、糺が褞袍を着込んで、机に向って本を見ていた。

「御免なさい。」と言って、お庄はそこへ上り込んで行った。

「誰か来ているのかと思ったらお庄か。」従兄はこっちを向いて、長い煙管を取り上げた。

お庄は挨拶をすますと、窓のところへ寄って来て、障子を開けて外を覗いた。そこはすぐ女学校の教室になっていた。曇ったガラス窓からは、でこでこした束髪頭が幾個も見えた。お庄は珍しそうに覗き込んでいた。

「どうしたい。」従兄はお庄の風に目をっている。

「今下で、お婆さんにさんざん油を絞られましたよ。」

「お前のいるところはどこだえ。」

お庄はそこへ坐って、煙管を取りあげた。

「何だ、お庄ちゃんか。」と言って、繁三も次の室から顔を出した。

二十八

日の暮れ方まで、お庄はここに遊んでいた。二階の連中と出しっこをして、菓子も水ものを買って、それを食べながら、花を引いたり、燥いだ調子で話をしたりするうちに、夜寄席へ行く約束などが出来た。