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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页
お鳥目がかからないでよござんすよ。」
「あすこなら人に逢う気遣いがないから、それもよかろう。鉱泉だけど、一晩くらい泊るにちょうどいい湯もあるし……」
「いつ行きます。」
「今日はもう遅いだろうか。」
「向うへ行けば日が暮れますね。」
翌朝笹村が目をさますと、お銀はもう髪を束髪に結って、襦袢の半衿などをつけていた。それは二月の末で、昨夜からの底冷えが強く、雪がちらちら降り出したが、それでも時々障子に日影がさして来た。
汽車のなかで子供は雫のたらたら流れる窓硝子に手をかけて、お銀の膝に足を踏ん張りながら声を出して騒いだ。背後の方から、顔を覗いて慰したり、手を出しておいでおいでをする婦人などがあった。
プラットホームを歩いて行くお銀の束髪姿は、笹村の目にもおかしかった。
「家鴨のようだね。」
笹村は後から呟いた。
「そんなに私肥っていて。」お銀は自分の姿を振り顧り振り顧りした。
子供を車夫に抱かせて、二人はそっちこっちの石段を昇ったり降りたりしたが、明るい山内の空気は、少しも仏寺らしい感じを与えなかった。寄附金の額を鏤りつけた石塔や札も、成田山らしく思えた。笹村は御護符や御札を欲にかかって買おうとするお銀を急き立てて、じきにそこを出た。