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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

二十七

それからかれこれ一時間も引き留められたが、暇を告げる時、お作は低声で、「お産の時、きっと来て下さいよ。」と幾度も頼んだ。

店頭へ送って出る時、目に涙が一杯溜っていた。

二十七

腕車がステーションへ着くころ、灯がそこここの森蔭から見えていた。前の濁醪屋では、暖かそうな煮物のいい匂いが洩れて、濁声で談笑している労働者の影も見えた。寒い広場に、子守が四、五人集まって、哀れな調子の唄を謳っているのを聞くと、自分が田舎で貧しく育った昔のことが想い出される。新吉はふと自分の影が寂しいように思って、「己の親戚と言っちゃ、まアお作の家だけなんだから……。」と独り言を言っていた。

汽車は間もなく出た。新吉は硬いクッションの上に縮かまって横になると、じきに目を瞑った。中野あたりまでとりとめもなくお作のことを考えていた。あまり可愛いと思ったこともないが、何だか深く胸に刻み込まれてしまったようにも思えた。そのうちに、ウトウトと眠ったかと思うと、東京へ入るに従って、客車が追い追い雑踏して来るのに気がついた。

飯田町のステーションを出るころは、酔いがもうすっかり醒めていた。