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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

その匂いが強すぎたんだよ。綾子さんが日頃ヘリオトロープを使っていることは誰でも知っているのだから、大切な犯行の際に、その特徴のある香水を、あんなに強く匂わせているというのは、犯人の心理に反するじゃないか。不思議なことに、最初君が傷つけられた時、カーテンの蔭に隠れていた曲者をおっかけた折には、少しもヘリオトロープの匂いなんかしなかったのだ。その時には、犯人が匂いのことまで、まだ気をくばっていなかったのだよ。そして、あとになって、僕が綾子さんがヘリオトロープを使っていることを知るようになってから、さっそくあの匂いを利用して、誤った判断におとしいれることを考えついたのだ」

「だが明智君、綾子さんが塔の三階で、怪しげな信号をしていたことは間違いないのでしょう。君の眼でその姿を見たのでしょう」

北森氏が急所を突くような言葉をはさんだ。

「そうです。あれは確かに綾子さんでした。はっきり顔を見たのです。そして、その時はじめて、あの人がヘリオトロープを使っていることを気づいたのですよ。

あれは綾子さんに違いなかったのです。犯人はあの綾子さんの不思議な行為を知って、巧みにそれを手品の種に利用したのですよ。