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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

悪魔の声

「なるほど。それは妙だね。お前たちの思い違いじゃないのかい。自分で物の位置を変えておいて、ヒョッと胴忘れしてしまうというようなこともあるもんだよ。化物屋敷じゃあるまいし、独りで物が動くなんて、ばかなことがあるもんか。ハハハハハ」

主人はわざと気軽に笑ってみせたが、誰もそれに応じてえがおを見せるものはなかった。人々の顔は前にもまして青ざめて行くように見えた。

「むろん独りで動くはずはありません。誰かが動かすのです。眼に見えないやつがこのうちの中を勝手に歩きまわっているのです。僕はなんだか、すぐそばにそいつがいるような気がするんです。こうして話しているのを、どっかその辺で、ニヤニヤ笑いながら聞いているのじゃないかと思うのです」

一郎はそう言いながら、脅えたようにガラス窓のそとの闇の中を見つめた。すると、人々はその闇の木立の中に、朦朧と黒い人影が現われて、室内の様子を窺っているような気さえするのであった。

悪魔の声

名探偵明智小五郎は、書斎の肘掛椅子にグッタリともたれこんで、無闇に煙草を吹かしながら、考えごとにふけっていた。あたりには、煙草の煙が朦々と立ちこめて、部屋じゅうが靄に包まれているように見えた。