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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

最後の犯罪

「そういえば、そうですね。しかし、いつ気が変らないとも限りませんし……」

「だから、充分用心するんだ。書生たちのほかに、警視庁からも人が行っているんだろう」

「ええ、それは、物々しすぎるくらいです」

「じゃ、君たちはいつもその人たちをそばへおくようにするんだ。お父さんにしろ、君にしろ、一分間も一人きりにならないようにするんだ。なあに心配することはないよ。僕の考えが間違っていなければ、きょうあすのうちには、何事も起こらないはずだ。僕が請合って上げてもいい」

明智は何か頼むところあるもののごとく、きっぱりと言いきるのであった。

この電話による奇妙な会話は、冷静な第三者には、なんとなく腑に落ちぬところがあった。この重大な事柄を電話などで話し合う一郎も非常識であったが、それに応じて、退院の日取りだとかそのほか大切なことを、軽々しく口にするというのは、日頃の明智に似ぬ軽率な態度であった。

だが、名探偵の言動にはいつも裏がある。この一見軽率に感じられる会話にも、何か深い裏の意味がこもっていたのではなかろうか。

最後の犯罪

さて、その翌朝八時頃のことである。

伊志田氏の寝室の前の廊下に、一脚の肘掛椅子が置かれ、そこに書生の中では最年長者の刑事上がりの男が、グッタリと腰かけて、正体もなく眠っていた。