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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

名探偵の盲点

彼女にそれほどの大それた腕前があろうとも思えなかったし、また想像し得べき動機がまったくないと言ってもよかった。

「僕は兄妹の感情としては、微塵も疑う気持にはなれません。しかし、理論はやっぱりあの人を指さしているようです。その矛盾をどう解いたらいいのでしょう。僕は外見には少しもわからない精神病というものを、ふと考えてみたのですが……」

一郎は沈んだ声で、問題にさらに新しい方向を与えた。思いあまったあげく、精神病にまで考え及んだのであろう。

「二重人格だね」

「ええ、そうとでも考えなければ、この謎は解けないような気がするのです」

ああ、一郎は彼の姉にジーキル、ハイドの二重人格を想像せんとしているのだ。伊志田邸に立ちこめる悪鬼の呪いは、うら若き女性の心に巣喰うハイドであったのだろうか。昼間は世に聞こえた大学者、夜は殺人の野獣と変る、あのジーキル、ハイドの魂が、都会の盲点に隠れる中世風の建物の古塔の中へ、今や再生したのであろうか。

名探偵の盲点

「ああ、君はそこまで考えていたのか」

明智は驚いたように美しい青年の顔を見つめた。

「むろん、そういう場合も考えられないではない。