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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
空を歩く妖怪
空を歩く妖怪
タイル張りの浴槽の中にはまっ赤な湯があふれていた。そして、その血の池の中に、一人の女性が屍体となって浮き上がっていた。
「君たち、少し遠慮してくれたまえ。そして、お父さまや綾子姉さんにこのことを知らせ、女中たちをよこしてくれたまえ」
一郎青年は書生たちを、両手で湯殿のそとへ押し出すようにしながら叫んだ。
被害者は一郎たちの義母の君代であった。まだ三十歳を少し越したばかりの美しい君代であった。悪魔の掟にしたがって、彼女もやはり眼をやられていた。そして、心臓の一と抉りが、彼女の生命を完全に奪い去っていた。
やがて、父の伊志田氏と綾子と女中たちがかけつけ、美しい義母の屍体には何枚かの湯上がりタオルがまきつけられて、彼女の寝室へ運ばれた。
重傷の明智探偵は、すぐさま外科病院へ運ばなければならなかった。明智自身の希望によって、彼の友人の医学博士が経営している外科病院に電話がかけられ、時を移さずそこから寝台自動車がきて、名探偵を運んで行った。
一方警視庁にこの事が急報されたのはいうまでもない。間もなく北森捜査課長が、部下を引きつれて駈けつけ、綿密な調査をとげたが、結局犯人については、なんの手掛りを掴むこともできなかった。