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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
狂気の家
三島刑事は思わず弾む声を押えるのがやっとであった。この喜びは刑事でなくては味わえない。
「へえ、二階でお寝みでございます。お加減が悪いとおっしゃって」
「君、間違いないだろうね。確かにいま言った着物を着ていたかい」
「へえ、着物も帯もおっしゃる通りでございます」
「宿帳は?」
老番頭がさし出す宿帳には、なんだか筆蹟を隠したようなぎごちない字で、
静岡県三島町宮川町五六、井上ふみ、二十歳
としるしてあった。
「寝ているんだね」
「へえ」
「それじゃ、一つその部屋へ案内してくれないか。少し調べたいことがあるんだ」
「へえ、それではどうぞ」
老番頭はすこしもためらわず、みずから案内に立った。二人の刑事は、靴をぬいで、足音を忍ばせるようにして、黒光りのする広い階段を、番頭のうしろから上がって行った。
狂気の家
二人の刑事は案外やすやすと目的を達した幸運を喜びながら、番頭を先に立てて、二階の綾子の部屋を襲った。
三島刑事の指図で、先ず番頭が襖をあけた。
「ごめんくださいまし」
猫撫で声で、静かに部屋へはいって行ったが、二たこと三ことなにか言っていると思ううちに、おやっという、唯ならぬ叫び声が聞こえてきた。