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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

懇意の間柄ですから、大尉の方から話したんです。大尉は髭が薄くて困ると言いました。その頃は海軍でもまだ髭を立てることが流行っていました。濃くする法はなかろうかと軍医に相談したのです。軍医は薬を拵えて渡しました。それを毎日つけているうちに、士官の鼻の下が腫れて来ました。狐のような顔になったそうですけれど、己惚ってものは恐ろしいもので、本人は気がつきません。そのまゝ見合に行って失敗しました」

「ハッハヽヽ」

「その後へ軍医が乗り込んで美事成功したのです」

「ハッハヽヽ」

「斯ういう具合に手際好くやらなければいけません」

「しかし……」

と瀬戸君が言い半して、躊躇した。

「何ですか?」

「医者として如何わしい薬を盛るのが紳士的といえましょうか?」

「患者じゃありません。敵ですよ」

「敵にしても、医は仁術と申します」

「仁術を尽すのは敵が負傷をしてから後のことです。初めからじゃありません」

「成程」

「敵が道を訊きに来た時、本当のことを教えるものは正直を通り越して、馬鹿か売国奴の領分に入っています」

「分りました」

「陥れなければ勝負がつきません。私の友人には斯ういう話が実に多いです。