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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

その次の屈託

「何うだい? 景気は」

「有難う。到頭ありついたよ」

「○○信託だってね」

と相手は知っていた。二人は流石に憚って声を潜めた積りだったが、七階へ着くまでに、安達君が五十五円、級友が六十五円、ボーナスは何方も半期に一つ半という待遇が、エレベーター・ガールに分ってしまった。エレベーター・ガールは二人の顔を見てニヤ/\笑った。二人も覚えず相好を崩して、逃げ出した。

「占まった」

「ハッハヽヽ」

「しかし一寸綺麗な奴だったね」

「うむ」

「君は買物かい?」

「いや、何てこともない」

「それじゃ一緒にぶらつこうか? 然う/\、関君がこゝへ入っているよ」

「ふうむ。何をしているんだい?」

「洋書部だ。寄って見よう」

「幾らだい?」

と何処までも待遇問題だ。

その次の屈託

日曜の朝、安達君は散髪屋へ行った。容姿端正ということは会社の勤務規定に書いてないけれど、現代青年は本能的にその努力をする。殊に安達君は几帳面の方だ。学生時代にも伸びるから伸びるまでゝなく、月一回と規則正しく定めていた。それを今回少し早目にしたのは矢張り就職気分の刺戟だった。

「旦那」

と床屋の主人がチョキ/\鋏を入れながら呼びかけた。