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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

何分お化粧に手間のかゝる人だから、いざという場合に即刻の出動が叶わない。自分もうっかりしていたが、大谷夫人も確かに責任がある。あゝなら斯う、斯うならあゝと理論丈け巧者で実行が伴わない。頼まれもしないのに見張り番をしていて報告してくれたお清の方が殊勲者だ。幾ら精巧な消防機関でも出動しなければ何にもならない。安達君は失望の余り大谷夫人が恨めしくなった。

清が上って来た。奥さんが一寸ということだった。

「お清さん、先刻は見張り番を有難う」

「何う致しまして」

「気が利きます」

「丸尾さんの奥さん、又お出掛けよ」

「はゝあ、橋本さんへですか?」

「いゝえ、通り越したそうですから市場でしょう。市場が安いものですから、あすこは何でも市場ですって」

「よく然う見張り番の目が届きますね」

「お隣りのに頼んであります」

「成程」

「これよ、奥さんは」

「何れ?」

「これ」

と清は顳に両方の人差し指を当てた。頭痛膏の意味だ。御機嫌の悪い時に貼るから、清には低気圧の信号になっている。尚おお隣りの女中は清の学校友達だ。清が郷里から呼んで世話をしたのである。

「安達さん、私、これから丸尾さんへ伺って参りますわ」