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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「事情が分っている丈けに黙っていちゃ悪かろう」

と溝淵閣下は一徹だったけれど、結局、郁子夫人の主張が通った。それは相身互の立場から入念に調査して、及ぶ限り建設的の努力をするということだった。

瀬戸君は去年の晩秋尻尾を巻いて退却して以来、初めて戦線へ再び足を踏み込む。その後別途の征服を遂げたから、威信には拘らないと思っているものゝ、流石に感慨無量だった。先ず橋本家の門前を通らなければならない。具合の悪いことに、佳子さんの弟の弼君がノコッと出て来た。正面に顔を合せてしまったから退っ引きならない。

「やあ、弼さん」

「久しぶりですね」

「お変りありませんか?」

「はあ」

「お父さんお母さんは?」

「元気です」

「…………」

「…………」

「今日は一寸そこまで」

と瀬戸君は筋向いの大谷家を頤でしゃくって、又門内を見返ったら、佳子さんが出て来るところだったから、

「失敬します」

と言って、歩き出した。占まったと思った。先方でも気がついて立ち止まったようだった。弼君は佳子さんと一緒に何処かへ出掛けるのらしかった。

瀬戸君は一直線に大谷家へ突進した。吉川君を訪ねるのが目的だったけれど、その前に安達君に会って形勢を確めて置きたかったのである。