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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
身体には汚れきった花模様のあるメリンスの着物を着ていた。これこそ、紛れなき丘田お照の子、絹坊だった。
「あッ、絹坊……」
と思わず手を伸しながら立ち上った僕は、そこに二重の愕きを経験しなければならなかった。それはこの絹坊の後から追いついて来た立派な洋装の女が、いきなり、絹坊の手を執って歩きだしたからだ。見覚えのある総毛皮のオーヴァを着こんだこの贅沢な女は、外でもない隣りの空き家に越して来た女マスミだった。
「やあ、マスミちゃんも……これはどうしたんです」
その声に、向うでも気がついたと見え、愕いて駈けよってきた。
「あらまあ、貴方でしたの……」と目を瞠って会釈した後で、「昨夜はどうも……」と、恥かしそうに身体をねじるようにして挨拶をした。それはなんともいえぬ色気があった。
「なんです、この変った道行は……」
「いえ、お母アさんが見えないというので、あたし連れて来たのよ。今朝起きてみたら、勝手の板の間の下でゴトゴトいうのよ。あけてみると、まあ愕くじゃありませんか、この子が縁の下を匍いまわっていたのよ。……それからとりあえず、上に上げて聞いてみると、お母アさんが居なくなったというでしょう。