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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

20

一体どうしたというんだろう。

「ああ、気がついたようです。……」

「ウン、もう大丈夫じゃ」

なんだか聞き覚えのある声に、僕はその方を振り向いた。そこに並んだ三つの顔。おお、その三つの顔!

速水輪太郎と呑んだくれのお照の顔は、別になんでもないからよろしい。しかしもう一つの顔は、僕の心臓を停まらせるほど愕かせた。

「おお『深夜の市長』! 貴方は生きていたのですか?」

20

「おお、『深夜の市長』! ほんとに貴下は……」

と、僕は吃驚仰天して、その場に跳ね起きた。

「貴下は一体何処に居たんです。みんな心配していましたよ。僕が貴下をどうかしたんじゃないかとひどく疑ぐられて、不愉快でしたよ」

僕は「深夜の市長」の頬から頤にかけて濃い髯のある面を懐しく下から眺めた。彼の顔はなんだかいつもとは違っているようであった。顔色は血の気もない迄に蒼く、そしてたいへん疲れているようであった。でも彼は強いて快活らしく装い、髭の下に隠れた唇を開き、

「いや鳥渡した事件で、友達に頼まれて出かけたんだよ。行ったは行ったが、そのまま手が抜けなくなってネ、皆に心配をかけちまった。……だが儂のことより、お前さん自身を気をつけたがいい。