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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

17

四ツ木を殺った者が、「深夜の市長」だったとすれば、これは一体どうなるのであろう。するとあの夜、彼に会ってからこっち、僕は完全にあの怪人の大芝居を見てすっかり欺されていたことになる。そんな大芝居を僕ごとき人間のために、なぜ打って見せねばならない程の事情があったのだろう。

17

僕は薄ら寒い築地の通りに立ちつくして、センチメンタルな気持に墜ちていった。

こんなところに迷い来て、千代子たちに会うようなことになったのも、非業の最期を遂げた仏が一念籠めて僕を引き寄せたわけだったかも知れない。これも人の世に珍らしくない縁の糸の力と思い、僕はポケットから一葉の名刺をぬいて仏の妹に手渡した。そして自分はこういう者だから心配しないでいいこと、それからきっとその事件は検べてあげて得心のゆくようにするから安心するようにと云った。しかし彼女の兄の屍体を見たこと等については、軽々しくいうべきことでないので、黙っていた。

役柄の肩書が物を云ってか、千代子はもちろんのこと、傲慢にさえなった大福餅売りの町子さえ俄かに態度をかえて信頼の念を面に現わして、無礼を詫びてくれた。

僕は面映くは感じながらも内心大いに得意だったが、なんという浅間しいことだろう。