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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

15

まるで泥亀が手足を甲羅の中に隠してしまったかのように。

15

僕は、日がとっぷり暮れるのを待って、役所の門を出た。僕の傍には、まるで狗ころを引張っているような塩梅式に、怪児絹坊が纏わりついていた。彼女は守衛の前をとおるとき僕のズボンを千切れんばかりにシッカリ抑えていたが、昼間よりはたしかに元気になっていた。しかし相変らず剛情に口を噤んでいて、何をされたって一言も口を開こうとはしなかった。全く妙な子供である。一体お照は誰と契ってこんな怪児を産んだのだろう。

あの午近い、日比谷公園の花壇で、マスミからこの子供を押しつけられたときには、全く弱った。こんな子供を連れて昼日中歩いてもいられもしないので何処か預けるところはないかと考えた。その揚句、幸いにも近くの丸の内十三号館の中庭に街の科学者速見輪太郎の住んでいる高い塔があったので、あそこなら陽の光の差さぬところもあろうし、速水もお照の子は知っているので、彼女を預ってくれるだろうと思った。そこで通りかかった円タクを呼びとめると、地面に獅噛みついて離れようともしない絹坊を、無理やりに抱き上げて車の中に入れ、丸の内十三号館まで行ったのである。