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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

14

――こういう土壇場にいよいよなってしまうと糞度胸の据わるのがまた吾輩の特性でもあった。

「僕ですかア。……僕はこういう者で……」

と、悠々内懐のチョッキのポケットへ手を入れて、そこに入れてあった名刺をとりだした。

「……ああッ、これは飛んだ失礼を」と助役は大狼狽だ。

「イヤこれは、私も失礼しました」と市長が云った。「こんなところに、はや御出張下すっているとは思いませんでした。どうか総監閣下によろしく……」

そういうと、高屋市長は中谷助役を促すと、あたふたと室外へ出ていった。その市長の顔は、無髯無髭で、なんのことはない肥った中国人のようにかっぷくのよい身体をしていた。僕には彼が「深夜の市長」に似ているかどうかを俄かに判じかねたのだった。

ほうほうの態で、僕は匆々市庁を飛びだした。

これは全く大変な失敗をやったものだった。これが問題になると、どう考えたって免官の外ないだろう。折角司法官になろうとして、ここまでは来たけれど、到底自分は満足に勤め終らせることができないような気がする。

そう考えると僕はなんだか、身体の深い底の方から、急に大きな声でウワーッと叫びたくなった。