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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

その方、昨夜から、お宅に泊っていた粋な方ネ。それから同情しちゃって、連れ出したのよ」

「ほほう、絹坊は縁の下に寝かされたのかい。ひどい女だなア……」

と僕は、お照の顔に似合わない無茶な仕打にいたく憤慨の念を禁じ得なかった。

「……」マスミは黙って下うつむき、彼女のオーヴァに顔をつけたまま恐ろしそうに獅噛みついている絹坊のお河童頭を撫でていた。

「でも、何だってこんな丸の内まで、お照さんを探しに来たのかね。あの女だったら、今頃亀井戸の家で寝ているんじゃないですか」

「ホホホホ」とマスミは突然可笑しそうに笑った。「外へ出たらこの子はお陽さまが当っているから恐いっていうのよ。随分変ね。お陽さまに当らないから、こんな蒼んぶくれをしているのだわ。それであたしはこの子のために、いかに太陽の光線が衛生によいかを知らせるため、この公園へ日光浴をさせに来たんだけれど、生憎今日はあまり照らないのネ」

「うむ、なるほど」といったが、見たところ絹坊は日光浴どころか、この灰色の空にさえ慄えあがっていた。この子はまるで蝙蝠のように、白昼そのものが嫌いらしい。

「この子は面白いのよ。さっきチューインガムを買ってやったら臭いを嗅いだだけで嘔吐すのよ。