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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

というのである。僕は全身が俄かに緊張に鳴り亘るように感じながら、電話函を出ると、通りがかりの円タクを大声で呼びとめた。

通用門を明けさせ、長い廊下にいらいらしながら、僕は宿直室に辿りついた。室内に居合わせたのは、思いの外の少人数だった。雁金検事は、書記を督励して、何か書類を繰らせていたが、僕の入ってきたのを見ると、つと室の隅に立って僕を手招きした。

「君は辰巳芸者のいる深川門前仲町の待合街を知っているかネ。ところでそこに紅高砂家という待合がある。そこへ直ぐ行って貰いたい」

「はア、待合で何をいたしますか」

「金曜会という会合がある。そこに川田さんという変名で、黒河内警視総監が居られるから、この手紙を持っていって貰いたい」

「えッ、警視総監が待合に……」

「誤解や早合点は慎しむがいいぞ。職務のために行って居られるのだ。手紙を渡したら何か挨拶があろう。後は総監の命令を遵奉して行動すること。分ったかネ。余り役人風を吹かせるんじゃないよ」

深夜の待合行き、――しかも向うには警視総監が列席しているという。なんという変った使命だ。事件らしいが、一体どんなことが起ったのであろう。