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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

金庫を開放して見せるまでは、われわれは餓死するともこの市政壇上から一歩も退くものではなアい!」

動坂氏の演説ぶりは、実に勇壮無比なものではあったが、昨夜の彼の醜態を思い出した途端に、およそ滑稽至極なものに見えた。――議席は満場総立ちとなり、怒号と拍手と口笛と足踏みとで、まるで鼎の沸くような騒ぎだった。この急迫せる事態を鎮圧すべき議長は、まるで置き物のように天井に向いて嘯いていた。それもその筈、彼もまた動坂一派の強か者だったのである。

僕はこの有様を見て、最早一刻も猶予すべき時ではないと思った。

僕は市委員控室の方に廻った。丁度そこに給仕が一人、リーダーを勉強していたので、これに一つの封筒を渡し、急いで中谷助役に手渡してくれるように頼んだ。給仕は、リーダーの頁に折り目をつけて本を閉じると、すぐ立ち上って議席の方へスタスタと歩いていった。

僕は再び議場にとってかえした。中谷助役はどんな顔をするだろうかと思うと、興味が深かった。――中谷助役は怪訝な面持で給仕から受取った封筒を机の蔭で破っている様子だった。一秒、二秒、三秒、俄然中谷助役の顔色は酒を飲んだ人のように赤くなった。