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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

その代り金庫の棚には大きな馬蹄形磁石が一つ、人を莫迦にしたように鎮座していた。――人々はウムと呻ったきり、互いの顔を見合わせた。

「どうですナ動坂さん」と総監は穴の明いた金庫を指さして云った。「都合のいい嘘をつきたいため、今※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)しこんだ鍵を偽せ物と呼びたいようですが、これはやっぱり本物のT市の鍵ですよ。だが貴方の工場で作ったこんな強力な磁石が入っているんでは、いくら本物の鍵を入れても扉は明く筈がないですネ。それはいいとして、紛失した重要書類の所在は、貴方が一番御存知のように思いますが、至急当局へお返しねがいたいですね」

「誰が書類のことなんか知るものか」動坂三郎は早くも出口のところまで逃げていたが、カッと目を剥いた。「ウム、よくも邪魔を……イヤ横暴なことをしたなッ。明日まで待っていろ、貴様を馘にした上、貴様が深夜の闇に隠れてどんな悪事を重ねているか、その仮面を引ン剥いてやるから……。よく覚えていろッ」

黒河内総監はニヤリと動坂の後を見送り、

「仮面は貴方のことです。貴方の仮面さえ剥げば、私はすぐにも辞職しようと……これ、この通り辞表を用意しています」