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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
ところがどうしたのか幾度くりかえしても、何の応答もなかった。僕の心は急に不安に包まれた。僕は急いで、入口をふさいでいる空き函の山を上の方から崩していった。――穴の中は真暗だった。人の気配もない。懐中電灯をパッと照らしてみると、洞窟内は奇麗に片づいていて、蓙一枚見当らなかった。只一つ、入口に四角な紙包みが、糸の先に吊されてプランプランしていた。
「おお、これは……」
僕はそれを手にとってみた。表には僕の名が書いてあった。封を破ってみると、中から一枚の紙片と、顔の下半分に当る付け髯とが出てきた。その紙片に認められてあった数行の文字は、僕を非常に驚かせた。
――一路、司法官としての御成功を祈り、永遠に君と袂を別つ。而して記念のために今は吾れに用なき「深夜の市長」の仮面を君に贈る。黒河内生――
僕は「深夜の市長」の付け髯と手紙とを胸に押しあてたまま、暫くは茫然としていた。今までどうもそんな気がしないこともなかったが、「深夜の市長」こそ深夜の勤務における黒河内警視総監の姿だったのか、いや黒河内総監こそは「深夜の市長」の昼間における勤務姿だったといった方がいいように思う。