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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

そしてピョコリと飛びだした赤い鼻頭には無限のユーモアが宿っていた。鬚の中に埋れた唇をモゴモゴやって、老人は僕の顔をジロジロ眺めながら目顔で催促した。

実をいうとそのとき僕は、すこし当惑している最中だった。それはポケットに入れて置いた筈の時計と十銭白銅三個が、どこかに引懸って、取出そうとしても、なかなか出てこないのだった。

「あれッ、変だナ……」

なかなか出て来ないということが、後にこの怪事件を解くことの手懸りになったのであるが、そのときはそんなこととは夢にも気づかず、見せるといったものが、あまりに出て来ないので、僕が出し惜しみをしているように老人に誤解され一喝を喰いはしないか――と、それを心配して、一層心は焦った。

「落したな。――」

「いいえ、そうじゃないんで、ここに入っているんですが、どうしたのか出て来ないんです。なにかにくっついているようなんです。うーン」

と僕が力一杯、引出そうとするのを見ると老人は、

「おっとおっと待った。人生無理をするなよ――ということがある。オーヴァを脱いでからにしたらいいじゃないか」

と注意をした。

なるほどと思って、僕はオーヴァを脱ぎにかかった。