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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

釦を外して脱ごうとするが、どうしたのか脱げない。右のポケットのところが妙に洋服の上に縫いつけられたような具合で、離れない。

「これは妙だ。可笑しいことがある。……」

僕は両手を、その縫いつけられたようなところへ持っていって、様子を調べてみると、果然、何ものかが洋服とオーヴァとをピシャリと縫いあわしているのだった。一体どこでこんな悪戯をされたのかと思って、なおも両手でもって縫いつけられた糸目を探してみた。そうしているうちに、

「おや、――」

と、思わず驚きの声をあげてしまったが、固く縫いつけられていると思った洋服とオーヴァとが、今度はまるで蒲団の糸目が外れたように、ポツンと離れてしまった。なんだか狐に化かされているような塩梅で、拍子ぬけがした。オーヴァは楽々と脱げた。そしてポケットの中から、懐中時計と三枚の十銭貨幣とが出てきた。僕はそれを掌の上に載せて、老人の顔の前に持っていった。

「これが、その証拠物件なんで……」

「…………」

老人は黙って僕の掌の中を眺めた。そしてマッチの軸木の先で、それをいじりまわしていたがやがて顔をあげて、ジロリと僕の顔を見た。その面にはなにか僕に抗議するような色があらわれていた。