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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

それから夕刻帰宅して食事を済ますと、二時間ばかり毛布にくるまってゴロリと寝る。最後は、深夜の散歩から帰ってきて、朝まで三、四時間をグッスリ睡る。このバラバラの比較的短い睡眠によって僕はいつも元気で暮していられた。ことに深夜の散歩のときは一番元気がよく、そして自分でも恐ろしくなるほど頭がハッキリしていた。……

通りへ出たとき一台の円タクが、背後の方から疾風のように駆けてきたが、僕の姿を認めたらしく急にブレーキをかけ、舗装道路の上にキキキキイッと鋭い音を出して、傍に停った。それは素敵な36年型の新車だった。

「旦那、お伴しましょう」

と、学校帽子を被った助手が窓から手を出していった。

「うん、頼むぜ。……下町へ向けて飛ばして呉れよ」

「へえ、どうぞ」といって僕を乗せてしまうと、「旦那、下町は何処です」

「河の向うだ」

「河の向うというと……本所ですか、深川ですか」

「業平橋を越えたところで下して呉れ」

「へえ、もっと先まで行きましてもよろしゅうございますが……へへえ、お楽しみで……」

「フフン、気の毒だネ」

深々したクッションの中に抱かれるように身体を埋めた僕は、その夜の散歩コースのことを考えた。