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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

入口の締りを外して中へ入ったとき、僕はなにか異変のあるのを直感した。僕はどこか変質者らしいところがあると見えて、前々からときどき不思議によく当る直感作用をもっていた。たとえばポケットの底の時計をギュッと握って、その文字盤を瞼の裏に念視していると、やがて朦朧と文字盤が現われてくるのだった。そのときなおも精神を統一すると、その文字盤の上に、長短二つの指針がアリアリと浮んでくるのであった。ああ、今は何時何分だな――。そう思って、こんどはポケットから時計を出して見ると、正にその時刻が瞼の裏に見えたのと同じなのである。こんな程度の直感は、身体が一種特別な調子になっているときに、よく起ってきたのであった。――丁度いま、僕が暗い室内に入るやいなや、なにか異変のあったことを直感したのも、全く同じ作用であった。

その異変は何であるかというところまでは分っていなかった。まず最先に気になったのは、机の引出の中に抛りこんで置いた昨夜の事件の証拠物件と深夜の市長の手紙とが入っているボロ布包みだった。僕は急ぎ机のところへ駈けよって、引出の鍵穴にガチャリと鍵をさしこむと、開いてみた。