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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は怺えながら、
「貴女は知っていますか、アノ深夜の……」
といいかけると、彼女は電気に引懸ったように全身をピリリと震わせ、
「叱ッ、……」
と叱って、酒くさい手で僕の唇に蓋をした。
「さあさあ、妾はお前さんに話があるんだ。オイ由公」といって、ここの主人らしい先刻のバーテンダーの方に振りかえり、手振りで合図しながら、「さっき頼んで置いた二階の部屋は明けてあるんだろうネ」
主人は酒壜を放りだして、慌てて飛んできた。そして、分っています分っていますという風に目顔で返事をしながら、横についている階段の方に女を引張っていった。
「母アちゃん。――」
途端に子供の声がして、どこに潜んでいたのか、小さい女の子が弾丸のように飛び出してきた。
「母アちゃん、何処にゆくのよオ。――」
そういって、女の袂に縋りついたその女の子は、年の頃四つぐらいでもあろうか、身体の小さい癖に、お河童にした頭のきわめてでかい児だった。顔の色は酒でも飲んだようにテラテラと上気して、飛びだしたような額の下には、蛤の貝を二つくっつけたような大きなグリグリ眼があった。そしてなんともいいあらわせないような不安な色を漂わせて、母親の顔を睨み上げた。