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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
残らなければならない。そう思うと雪子は、自分が蘆屋にいたいと云うことは、中姉の家族と一緒に暮したいからでもあるけれども、それにも増して関西の土地そのものに対する愛着心の結果であり、東京が厭と云うことは、本家の兄と肌が合わないせいでもあるが、一つには関東の水そのものが性に適しないのであることが、自分にもよく分るような気がするのであった。
幸子にはその辺の事情が察しられたので、明くる日になっても、わざと何とも云い出さずにいて、まあどうするか、雪子と悦子とで好きなように極めたらよいと思っていると、雪子は朝のうちは家でぐずぐずしていたが、悦子が頻りに行きたがっている様子を見て、午後になってから独りでそわそわと身支度をし、例の注射を妙子に一本打って貰い、誰にも何とも云わないで、お春を連れてふらりと何処かへ出かけて行った。そして夕方の六時過ぎに、神戸の大丸や元町あたりの商店の包紙に包まれた物を一杯提げて帰って来て、
「これ買うて来た」
と、帯の間から翌朝の「ふじ」の特急券を二枚出した。これだと、大阪を午前七時前に立って横浜へ午後三時前に着くから、三時ちょっと過ぎには突堤へ行けるであろう、そうすれば少くとも二三時間は会う余裕があろう、と云うので、それからぱたぱたと話が極まり、慌てて荷拵えをするやら、シュトルツ夫人の所へその